経口補水液について |
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《ORS:経口補水液とは》 |
経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)というものをご存知ですか?ORSとは水分をすばやく補給できるようにナトリウム(Na)とブドウ糖の濃度を調整した飲料です。WHO(世界保健機関:World Health Organization)は、1970年代にコレラ感染による下痢に伴う脱水状態時に使用を推奨して以来、発展途上国を中心に大きな成果を上げ、その後、臨床研究に基づき2002年にNaとブドウ糖の濃度を下げた新しいORSに関するガイドラインが策定され、軽度から中等度までの脱水症への使用を推奨されています。季節も暑い夏から秋・冬へと代わっていき、運動の秋・食欲の秋となり、冬が近づくと小児を中心に感染性胃腸炎が流行る時期でもあります。そんな時のひどい下痢や激しい運動後の給水におすすめの補水飲料を紹介します。 |
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《なぜ水だけではダメなのか?》
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なぜひどい下痢や激しい運動後の給水になぜ水だけではダメなのでしょうか?必ずしも水だけでダメということではありませんが、激しい下痢や過度の発汗の際には水分の吸収率が問題になります。下痢などで出て行く水分をすばやく吸収することが大切であり、ORSはそのために開発された飲料です。 |
口から入った水分・食べ物は小腸管腔に届きます。食べ物は分解(タンパク質はアミノ酸へ、糖質はグルコースへ)され電解質や水分などと一緒に吸収されますが、このとき水分は電解質の一種であるNaがあると吸収が促進されることが分かっています。 |
という訳で、水はNaと一緒に吸収されますので水分を補給する時はNaが入っているものが良いということになります。さらに、Naは糖質(グルコース)と共に(1対1の割合で)吸収されるので、水+Na+糖質(グルコース)が入っている飲み物だと効率良く水分を吸収できることになります。 |
グルコースなどの栄養やNaその他の電解質は小腸の表面にある様々なポンプによって吸収されますが、グルコースとNaが1対1の割合で吸収されるポンプがあり、これをNa-糖共輸送担体(SGLT1:sodium-dependent glucose transporter 1)と言います。水分は量が多い方(この場合は小腸)から少ない方(細胞外液)へ吸収されますが、Naや糖はSGLT1を使い量(濃度)が少ない方から多いほうに運ばれるためORSは細胞液よりも濃度が薄く(浸透圧が低く)なっています。このためNaなどの濃度が体液よりも高すぎても低すぎても吸収が良くないため飲みすぎたりしてかえって下痢や脱水を悪化してしまうこともあります。 |
コレラやロタウイルス(冬季における小児感染性胃腸炎の原因の1つ)感染などによる激しい下痢の場合でもこのSGLT1は機能を維持し続けることが分かっていますし、点滴とは違い特別な機器・技術を必要としないため、効果的に水分を吸収できるORSが使用・推奨される理由になっています。 |
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《ORSの飲み方》 |
では、ORSはどんな時・どんな風に飲めば効果的なのでしょうか。まずは先にも書いた通りロタウイルスなどによる激しい下痢の時です。小児(特に2歳未満)は腎臓での尿の濃縮が不十分のため脱水に陥りやすいと言われています。発症すぐ(3〜4時間以内)はORSを小児で体重1kgあたり50〜100mlを飲ませます。この時、嘔吐を伴うことも多いため、一度に大量に摂取すると反射的に嘔吐を引き起こしてしまうこともあります。少しずつ、補給することが大事になります。発症後4時間以降は少しずつ下痢や嘔吐で出た分だけを補充します。(下の表を参考にして下さい。)
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その他の場合としては激しい運動の後による発汗などにも効果的です。基本的には下痢などによる脱水状態の場合に使用すると良いでしょう。 |
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補
水
の
目
安 |
脱水の程度 |
発症3〜4時間以内
(補水療法) |
発症4時間以降
(喪失水分の補充療法) |
脱水なし |
行わない |
ORSを下痢や嘔吐の都度、
体重10kg未満の小児 60〜120ml
体重10kg以上の小児 120〜240ml
(成人は500〜1000ml/日を目安に) |
軽度〜中等度 |
ORSを50〜100ml/kg
飲ませる小児の場合。
少しずつ無理しない程度。 |
重症 |
点滴などで対応。すぐに病院に行きましょう!!医師の指示に従ってください。 |
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《家庭でORSを作るには》 |
ORSは薬局で購入可能であり製品として手に入れられます。しかし、いざという時に家庭においてないかもしれません。(小児がいる家庭や日頃から激しい運動をされる方などは常備しておくのも良いでしょう。)そんな時は先にも書いたとおり、水にNaと糖質が入っていれば良いので、砂糖40g(上白糖大さじ4杯と1/2杯)と食塩3g(小さじ1/2杯)を湯冷まし1リットルに良く溶かし、かき混ぜて適温にしたものを作ります。レモンやグレープフルーツなどの果汁を絞ると飲みやすくなり、カリウムの補給にもなります。 |
また、おかゆや味噌汁の上澄みと塩分を含まない白湯やお茶を飲ませると代わりになります。日本で伝統的に用いて来たように、胃腸炎の際に重湯に少量の塩分(食塩)を混ぜて飲ませる方法は、脱水の治療や予防に良いのです。昔の人たちが経験的にやってきたことが正しかったということで、世界各地に存在する民間療法です。家庭で重湯などを代替として使用する場合は塩分が高くなり過ぎないように注意し、また、ジュースや白湯などの塩分が少ないものを多く取りすぎないように注意しましょう。また、重度の症状の場合は病院でしっかり診てもらいましょう。 |
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《一般に売られているORS》 |
ORSの商品としてオーエスワン(OS−1)やアクアライトORSがあります。オーエスワンは大塚薬品から出ていて、厚生労働省から許可された特別用途食品で、個別評価型病者用食品です。下痢・嘔吐・発熱や経口摂取不足、過度の発汗による脱水症状に適しています。乳幼児からお年寄りまで、軽度から中等度までの脱水状態時にお勧めで、オーエスワンゼリーはそしゃく・嚥下困難な場合にも用いることができます。(高齢者の場合、現在の疾患に影響を及ぼす可能性もあり、医師と相談の上使用して下さい。) |
下記の表はORSの電解質組成をまとめたものです。一般的なスポーツドリンクよりもNaイオンなどが多く入っているのが分かると思います。これは下痢によって便と一緒に失われる電解質の方が運動などによる発汗によって失われるよりも多いためです。ですから下痢(特に小児)における経口補水にはORSが適しています。また、一般的な運動による発汗だとスポーツドリンクでも十分だと思われますが、過度の発汗をすると失われる電解質の量が多くなるためORSが適しているとされています。 |
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経口補水液の電解質組成 |
成分 |
Na |
K |
Cl |
Mg |
リン
(mmol/L) |
乳酸
イオン |
クエン酸
イオン |
炭水化物
(ブドウ糖) |
WHO−ORS
(2002年) |
75 |
20 |
65 |
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30 |
1.35% |
米国小児学会
経口補水療法指針
(維持液) |
40〜60 |
20 |
「陰イオン添加」
「糖質とNaモル比は2:1を超えない」 |
2.0〜2.5% |
オーエスワンシリーズ |
50 |
20 |
50 |
2 |
2 |
31 |
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2.5%
(1.8%) |
アクアライトORS |
35 |
20 |
35 |
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4.0% |
一般的な
スポーツドリンク |
9〜23 |
3〜5 |
5〜18 |
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6〜10% |
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FROM:かりん薬局 |